PKの哲学 May.16,2018(追記Sep.20,2018)
今回もAGECアウトドアにアクセスしていただきありがとうございます。サイト管理人の友人Sです。
今回のネタはシュアファイアの10年前のフラグシップモデルです。正直10年前のライトの真面目なレビューなんて需要も無いと思うので詳細なレビューをするつもりはありません。
でもKROMAには本当に心から感動しました。なので今回はあえて時代背景に注目して軽く紹介することにします。簡易レビューと言えるかすら微妙かもしれませんが、思いっきり脱線しながら言いたい放題書くことにします。
まず、いくら値段が落ちてきたといっても金の無駄です。実用ライトとして全くお勧めしません。買わないでください笑。

で、何が感動かって?
このライトはとにかくピーキーなんですよ。まるで2stレプリカのようです。ただ、スペック的な話ではありません。こいつの最高出力はたったの50lmですから。設計思想が過激なんです。
かれこれ20年ほど前、LEDの登場によってフラッシュライトに革命が起きました。LEDのメリットとして、低電力・高輝度・耐衝撃とかもあるのですが、見過ごされがちな点として、コンバータを併用しているので電子制御によって出力設定の自由度が大幅に上がったのです。具体的に言えば、ストロボモードを付けたり、弱・中・強、と明るさを多段階にすることができるようになりました。それ以来、大きな流れとして汎用性を求めてライトは高機能化していきました。
でもKROMAはそんな流れの中でも過激さを棄てませんでした。本当にピュアです。その裏にはポール・キムという名の一人の東洋人の存在がありました。
“昔のシュアファイアは良かった”
とか言ってるオヤジどもはこの純粋な過激さ、もっと言えばPK氏の設計哲学を評価してるのです。具体的にどういうことなのかはまたあとでちゃんと説明します。
それにしても、、、
PKとピーキーってなんか響きが似てるな笑。
前置きはこれくらいにしといて、本題に入りましょう。
2セル上位モデル
恐らく最も実用的で人気があり、独創的なコンセプトで最新技術を惜しみなく投入した刺激的なモデルがたくさん転がっているジャンルです。
まだ記憶にも新しいと思いますが、2016年から2017年にかけてのほんの数か月間、限定生産されていたシュアファイアの2セルフラグシップモデルがこいつ↓です。
UM2
2015 surefire catalog
UM2は2015年に発表されたものの、発売延期が続いてなかなか発売までこぎつけませんでした。それでも、
久々にシュアファイアが面白いライト作ったぞ!!
ってたくさんの人が喜んで話題になりました。推測ですが、恐らく価値はしばらく上がる一方なので欲しい人は吊り上がる前に買っておくことを勧めます。
シュアファイアのこの2セルフラグシップモデルがどっから来たのか見てみることにしましょう。
目次
UM2の系譜
2015年に発表される前にも実は2012年にUM2の計画はあったのですが、なんと3年もブランクが空いています。
まあ、ほぼ確実にあの大事件が絡んでいるのがその理由でしょう。
2013年1月
PK氏、シュアファイアを去る。
で、その直前の2012年はと言えば↓↓こ~ゆ~↓↓たのしそ~な計画もありました♪。
2012 surefire catalog
が、、残念ながらほとんど実現せずボツ泣。
UM2の光学系はもっと他のモデルにも使われる予定だったんですね。ホントに残念です。
プロジェクトがこれから本格的に実現しそうだったとこで出鼻をくじかれたんですからしゃあないですな。
話を戻して、
2012年
UM2 ULTRA(計画)
2012 surefire catalog
これが最初のUM2計画です。UM2の構想は発売の5年前、2012年の時点でもうほぼ固まっていました。
UM2は通称“ベビードミネーター”です。まあドミネーターは10Xだと思ってるオヤジは反論するでしょうが笑。なわけで、もちろん次はUDRドミネーターが来るわけですが、このUM2計画はUDRの進化系と言うよりは、そのさらに前の一番最初の原型の計画を練り直したものに近いでしょう。
2011年
UDR DOMINATOR
UBR INVICTUS
2011 surefire catalog
UDR、UBR、UNR、UAR(計画)、R1、R2(計画)と2010年代を代表する高機能充電モデルはここから来ています。
時代が時代だったのでUDRドミネーターが最初発表された時はHIDかと思いました。LEDと知って、とんでもないバケモンが発表されたなあ、と思いましたが実際に発売にこぎつけたのは相当後の話です。
系譜という観点でみればUDRなんてセレクターリングと輪郭が似てるくらいで注目すべきはUBRでしょう。セレクターリング、4ファンクションスイッチ、ターボヘッドTIRレンズ、充電機能、と進化の究極形を行っていました。
2010年
UB3T INVICTUS
surefire 2010 catalog
UBRの前はといえばもちろんUB3T。実はこいつにも元ネタがありまして、
2009年
UB3 INVICTUS(計画)
2009 surefire catalog
UB3Tの前には実はこんな計画があったんですよ。で、こいつのさらに元ネタもあります。
2008年
UB2 INVICTUS(計画)
2008 surefire catalog
そうです。こいつに行きたかったんです。やや大きめのTIRレンズ、セレクターリング、そしてクリップのついた2セルモデル。こいつがUM2の元ネタと言うべきでしょう。
で、さらに同時並列の姉妹モデルがもう一機。
UA2 OPTIMUS(計画)
![]()
2008 surefire catalog
見た目はUB2と全く同じですが、なんと可変照射角!こないだの記事でも軽く紹介しましたね。
図を見る限り、2つのTIRレンズの組み合わせた光学系でやろうとしたみたいですが、具体的にどういうメカニズムなのかは興味が湧きます。これ以来可変照射角の話を聞かないのでビームパターンが汚くてうまく開発が進まなかったのではないかと予想します。
この今までの流れ↑↑を理解しているマニアはUM2の発売を聞いて
おっせーよ!俺らは10年近く待ってたんだよ!!!
と叫んだはずです(心の中で)。また、同時に、
PKがいない中、発売までよく頑張ったな!
とちょっと感動もしたわけです。
で、その可変照射角機能に目が行きがちなUA2計画ですが、名前からもわかる通り、もとはと言えば
U2 ULTRAとA2 AVIATORを合体させよう!
という意図で生まれた計画です(多分)。
で、ついでに可変照射角もやってみっか?!みたいな??
と言いつつも、U2要素:A2要素=8:2くらいで、最終的にはUM2でA2要素は全て抹消されたんですけどね笑。
えっと、U2とA2を知らない方もいるかもしれないので軽く紹介しますと、
A2:キセノンからLEDへの過渡期に生まれた名作。初めて2段階スイッチを採用してスイッチ半押しで弱いLEDの拡散光、全押しで強力なキセノンのスポットというUIが今でも高く評価されています。さらに、光量維持のために初めてコンバータまで採用した先進的なモデルでした。
U2:LED時代の初期に生まれた名作。セレクターリングを回すことで光の強弱を調整できます。電子制御による調光可能なLEDの可能性を最大限に生かしながらユーザーフレンドリーな操作性を実現しようと挑んだ名作で、セレクターリングは今でも一部の機種に採用されています。
![]()
2007 surefire catalog
話をもどしまして、
UA2・UB2計画のホンの直前の頃、U2+A2という同じコンセプトを別のアプローチでやってみたフラッシュライトがあります。
で、こいつはU2要素:A2要素=3:7くらいに仕上がっています。
それが今回の主役(なのかすらもはやわからないが)、K2 KROMAです。

スペック
K2 KROMA
全長:約143㎜
ボディ径:約24㎜
ベゼル径:約37㎜
ヘッド規格:U規格
テール規格:P規格
重量:
110g(電池抜き)
142g(電池込み)
光束・ランタイム(公称値):
【メイン白】50lm(1h)/3lm(20h)
【サブ青】4lm(20h)/0.5lm(TBD)
【サブ赤】5(20h)/0.5lm(TBD)
UI:
2段階調光テールスイッチ+5モードセレクターリング
スイッチをねじ込んで常時点灯(奥にねじ込むと弱→強)
スイッチを押して間欠点灯(半押し弱、全押し強)
【弱】 【強】
右回し 赤強 白強+赤強
リ↑ 赤弱 白強+赤弱
ン| 白弱 白強
グ↓ 青弱 白強+青弱
左回し 青強 白強+青強
参考実測照度:
約2000lux@1m(2*CR123A)
パナソニック、新品
室温約24℃
ボディはU2やV2と共通のU-Pボディで、ベゼル径は1.47インチとZ32と共通です。
PKの本気
ヘッドの中はこうなってます↓。まるで小さなコンピュータの塊って感じです。こんなライトが10年前に既に存在していたのが驚きです。
ちなみにこの個体は分解しやすいようにロックタイト等が最初から塗布されていない個体で、PK氏からMcGizmo氏に個人的に送られたものとのことです。
昔のキセノンライトとは比べ物にならないほど複雑な精密機器です。基盤とLEDの間の黒い部分はアルミ削りだしで、放熱を意識したものだと思われます。それでも点灯していればヘッドは結構すぐあったかくなりますが。
この複雑さの恩恵がUIです。
2段階調光スイッチなのでこの記事を読んでる方は素晴らしさをわかっているとおもいます。
スイッチを押し込めば強点灯、離せば消灯。
汎用性のある道具としての部分と制圧用の武器としての部分が完全に分離していて誤操作の心配が少ないです。特にタクティカルライトにクリックスイッチを採用すべきではないという意見は割と多いです。で、KROMAのすごさはセレクターリングの採用で半押し弱モードの可能性を大きく広げたことです。文章で書いてもあんまり伝わりませんが、赤にしたり青にしたり、このライトは遊んでて楽しいんですよ。赤は何にも色がわかんなくなりますし、逆に青だと黄色や水色などの明るい色だけが浮き上がります。で強烈な光が欲しければ何も考えずにスイッチを押し込むだけでいつでもアクセス可能。
そういうのを抜きに考えても、後のUB3T以降への流れを作ったという点で非常に意味があります。

で、公称スペック50lm。
シュアファイアはタクティカルライトは最低50lm必要だと言っています。数値で見たとき、50lmなんて暗いんだろうなあって最初思ってました。甘かったです。
50lmに感じません。
もちろん、シュアファイアはスペックを控えめに出すのもあるんですけど、それにしては明るいです。
理由は単純で光量の割に中心照度がオモックソ高いからです。400lmオーバーのショットガン君よりもかっ飛びます。まああれは8倍の明るさと言っても拡散系なんで比べるのもあれですが。
光学系は非球面レンズ。これが何を意味するのかわかる人にはわかると思います。詳細の説明は別の記事を読んでいただくとして、この手のレンズは大抵、
周辺光全く無し+狭い鋭い中心光
っていうくっそピーキーなビームパターンになります。中心照度は高いが、僅かな範囲しか照らせない。KROMAも例に漏れずそうです。

それにしてもレンズの突出にあわせてか風防ガラスが平面じゃなくてわずかに膨らんでるってすごいなあ。金かかってやがる。
当時のシュアファイアの奴ら、恐らくは設計時にこう考えたのでしょう。
①LEDってまだ発展途上でまだちょっと暗いなあ
→最低限タクティカルライトとして機能するレベルには集光させよう!
②困ったなあ、周りに砲弾型LED並んでて光学系大きくできないなあ
→汎用性棄てて非球面レンズを採用しよう!
③でもまだ十分に集光できてないなあ
→絶対的な光量落として集光効率上げよう!
なぜ暗くしたら中心照度が上がるか?同じ電流で駆動した時、一般的に明るいLEDほど発光面が大きく、集光効率が下がります。なので、特に小さな光学系において集光させようと思ったとき、あえて小さいLEDを選択することで面積当たりの発光量をあげることで中心照度を上げることができます。クローマのLEDが何かわからないので確実なことは言えませんが、多分そういう意図ではないかな~と予想します。
汎用性と明るさを棄ててでも中心照度を確保する。
なんて潔いフラッシュライトなんだ!
パワーに頼らない職人的な設計にマニア心が揺さぶられました。
シュアファイアとしても結構本気で頑張ったライトみたいで、YouTubeのシュアファイア公式チャンネルの1本目の動画がKROMAのプロモーションビデオでした。
そして後にセカンダリーLEDを赤青→赤青緑IRに変更したクローマ ミルスペックとなって何年もズルズル生き続けます。明るさを130lmに上げる計画もあったので計画通りLEDをアップグレードすればよかったものを50lmのままズルズル引きずりました。そら売れんわな。
ちなみにシュアファイアのHP見ると廃盤在庫限りのアウトレットページにまだ残ってます笑。廃盤になったの何年前だっけ笑??
でも売れんわな
クローマさん、光学系がK2専用で他モデルに流用されなかったり、当時としては非常に複雑な作りだったりで開発費もかさみました。残念ながらそれはそのまま価格にのしかかりました。
MSRP:$430
えーっと、これ2セルのハンドライトだったよね?
この頃surefireの存続を脅かすライトが発売されます。その中でも特に有名なのが2008年6月発売のこれ↓。
FENIX TK11
https://www.bikeradar.com/gear/category/accessories/lights/product/review-fenix-tk11-torch-33589/
最高出力225lm、18650対応
同年12月、マイナーチェンジでLED変更(CREE XR-E Q5→R2)
最高出力225lm→240lm
これで1万円くらいでしたからすごい!!
そうです。中華ライトの台頭です。
ヘッドを締めるか緩めるかで2段階調光。この頃の中華ライトはまだかなり“タクティカル”なUIでした。それにしてもTK11も中華ライトでは珍しいロングセラーでしたね。
そりゃあシュアファイア負けるよ!
PKはこのことをよーく理解していました。特にシュアファイアはLED採用が遅れていましたのでなおさらです。PKは改革の必要性をシュアファイアの社内でずっと叫び続けていました。
でもシュアファイアってメーカーはなかなか変わろうとしなかったんですよね。だって、シュアファイアの18650対応のモデルを思い浮かべて下さい。P1Rだけですよ??そのP1Rの発表・発売も18650が普及してから何年もたった後の2014年です。
【追記Jun.6,2018】今年発売のFURY DFTとM600DFを忘れていましたね。すいませんでした。それでもP1R発売から4年間も18650採用モデルは増えなかったわけです。
この“変わらない体質”ではダメだと判断したPKはシュアファイアを去りました。
まとめ
メーカー側の意図が少し高度すぎました。
多くの人にとっては“やたら高額で、そのくせ明るくもない、変な形したライト”としか認識されなかったのでしょう。
でもその中身は汎用性やスペック値をかなぐり捨てた、妥協無しで本気で設計した特殊道具です。一言で言い表せば“本物”です。
今、ここまでストイックにモノづくりをしているメーカーはあるのでしょうか?
少なくともPKが去った今のシュアファイアにはこんなライトは絶対に作れないでしょう。
それにしてもKROMAさん、開発の労力の割にあんまり利益にならなかったんじゃないかなあ?
独断と偏見に満ちた総合評価:85/100
↑PKが去って以降の個人的に思う最も“シュアファイアらしい”ライトがこれです。と言ってもこいつはシュアファイアが自ら生んだものではなく、タクティカルレスポンスのジェームズ・イェーガーがジョン・マシューズのケツをたたいて生まれたものです。やっぱりシュアファイアの奴らダメだな。
追記 Sep.20,2018
さて、段々とLED積み替えたくなりました。最新鋭の小型高発光密度のLEDを乗っけてかっ飛ばしたくなりました。
で、分解してみたんですが、、、

半日格闘した挙句、失敗して死にました泣
ていうかただでさえ分解難度の高いモデルなうえ、この個体、ロックタイト硬すぎ。。。。
シュアファイアの奴ら、修理するときとかどうやってバラしてるんだ?!
とりあえず、バラシてみてわかった事
樹脂パーツ多用してます

あっためすぎてリテーナーリング融けました苦笑。
意外だったのが樹脂レンズ。ガラスじゃない!!
外側の縁の方はTIRですが、全体の割合としては非球面レンズの部分が極めて大きいです。ビームパターンも納得です。
LEDの台座部分も樹脂になっていました。シュアファイアがクローマを高出力化しなかったのは放熱が間に合わなかったからかもしれません。
でもコスト度外視のライトだし作ろうと思えば金属でも作れたよなあ。。。逆に低出力だったから樹脂でいいやってなったのか??
LEDはルクセオンK2

多分ルクセオンK2です。K2にK2搭載笑。
max1500mAですが、もっと低電流で駆動されていたと思います。(死んだので確認できません泣)
セレクターリングは磁気スイッチ

以前から仕組みが気になっていたのですが、セレクターリング付きのモデルをばらしたのが初めてだったので自分としては新しい発見でした。
セレクターリングの内側に磁石が埋め込まれています。また、基盤に磁気センサーが並んでいます(写真で一番右の基盤の手前側に並んでるチップです)。
こうやって磁石の位置を感知して弱モードを切り替えていたんですね。納得。
これ、地面に落としたらリングの下に砂鉄とか入っちゃうんだろうなあ。。。
ポッティングなど無し

なんでコスト度外視のハイエンドモデルがポッティングされてないか割と謎です。
コンフォーマルコーティングもなかったのでまだLED駆け出し期でまだ導入前とかだったのかもしれません。
とりあえず、以上。
分解に挑戦される方は引き返す勇気をもって挑みましょう苦笑。
セレクターリングの分解はパーツを壊しやすいのでこちらを参照↓
http://www.candlepowerforums.com/vb/showthread.php?192035-Kroma-take-that-liquid-weld!
そこだけ気を付ければあとは力づくでヘッドを3つにばらすだけです。
ボディとスイッチはまだ生きてるので気が向いたらまた頭を作ります。