懸垂下降(ラペリング)のバックアップ

真実はひとつじゃない May.31,2018


本日もAGECアウトドアにアクセスしていただきありがとうございます。サイト管理人の友人Sです。

今回は初心者向け記事で懸垂下降のバックアップを説明します。

本題に入る前にいつものお約束で大人の事情による但し書き。

・この記事は懸垂下降の技術を知っている方向けに書いています。この記事の内容を理解できない方は実践しないでください。
・実践する場合は自己責任にて行ってください。いかなる事故に対しても当方は責任を負いません。

 

バックアップとは?

懸垂下降におけるバックアップとは、懸垂下降中に両手を離してしまっても停止するように下降器とともにフリクションヒッチ等をセットすることです。

 

この話になると、ペツルのシャントっていう筆者が生まれるずっと前のヒーベラーやヒラリ環の時代から売られてるアッセンダー↓が話に出てくることがあります。筆者も昔持ってましたが売却しちゃいました。

シャントもバックアップに使うこともできますがクライマーにとってはただの重りでしかないので買わなくていいです、というか買わないでください。あれは、ロープアクセス業務で使う人(ASAPっていうデバイスに近いうちに全面移行すると思います)やロープ2本で使えるアッセンダーが欲しいっていうギアマニア変態さんしか買いません。

この記事を読んでくださってる方はフリクションヒッチ用のロープスリングを用意しましょう。エーデルワイスのΦ7mmのプルージック用の赤いスリング↓を使う人が多いんですけど、これは正直お勧めしません。たぶんレスキューとかで11mmロープとか12.5mmロープ使う人向けだと思います。

で個人的にお勧めなのがこれ↓。エーデルリッドのアラミドスリング。

でも高いんですよね。貧乏人は切り売りのエーデルワイスのΦ5.5mmのケブラーパワーコード↓を勧めます。細くて強度が高く、シースがたるんでる分食いつきが全然違います。1.5mをわっかにしてスリングを作ると丁度60cmスリングくらいになります。

スリングの長さは懸垂下降のバックアップにしか使わないなら60㎝だと長すぎる場面が多いでしょう。でも他の場面でも使う時、プルージックだけなら30cmでもいいんですけど、マッシャーやクレムハイストなどほかのフリクションヒッチを使うときは60cmあったほうがいいでしょう。この辺は好みや使うロープによっても変わってきます。切り売りを自分で結ぶなら好きな長さにできますので異なる長さをいくつか用意してもいいでしょう。

で、フリクションヒッチはまた今度機会があればまとめて紹介しますが、自分でいろいろ試して効きを体感的に覚えてください。フリクションヒッチは巻き数が足りなければ滑って止まりませんし、巻き数が多ければ逆に動かしにくいです。フリクションヒッチは一歩間違えるとかなり危険なのでよく練習しておいてください。

バックアップの必要性

懸垂下降のバックアップは講習会などでは当たり前のようにやっています。気を失うなどのハプニングで両手を離しても落ちないようにということでしょう。

でも筆者は懸垂下降のときにバックアップを基本行いません。筆者の周りを見ていると社会人山岳会系はしてない、講習会・大学山岳部系はしている、といった感じです。

人はパニクったら握ってるものをより強く握りこみます。懸垂下降時にバックアップを取っていて、下降中にパニくってフリクションヒッチを握ってしまったら止まりません。だったら操作性を優先したほうがいいのではないかという話です。

もし初心者がいたら経験者が先に降りて初心者が降りるのをビレイすればいい話です。懸垂下降中に下にいる人(ビレイヤー)が手でロープを下に強く引けば停止します。

まあそんなのは表面上の理由でみんなの本音は面倒いから単純に不要だからということでしょう。懸垂下降の事故といえば、初歩的な操作ミスや支点崩壊などが中心でバックアップで防げた事故はむしろ少ないと思います。ならばスピード優先で間違えにくいシンプルなセットのほうがいいということでしょう。ただ、バックアップをしない場合でも仮固定のやり方くらいは知っておくべきです。

 

だから懸垂下降のバックアップをどんな時でもするというのも必ずしも正しくないと思います。でもバックアップを基本しない、ってだけで全くしないわけではありません。例えば、懸垂下降をしようとロープを投げたら途中で引っかかって絡まってる、など途中で両手を離して作業しなければいけないとわかっているときはバックアップをとります。結局のところ、臨機応変に状況判断するべきだということです。

誰かがこう言ったから正しいと鵜呑みにするのは絶対にやめましょう。常にその裏にある理由を考えましょう。それが自分の命を守ることにつながります。例えばビレイ時には絶対手袋をしろっていう話だってそうです。最近筆者のまわりでも、ムンターヒッチでビレイしていて指が巻き込まれて切断された写真を巡って、ビレイ時にグローブをすべきかということが少し議論になりました。

バックアップのセット方法

フリクションヒッチが下降器に接触すると効きません↓。下降器とバックアップの両方をビレイループに接続してはいけません↓。

なので下降器とフリクションヒッチの間に距離を開ける必要があります。

セット方法がいくつかありますが、それぞれメリット・デメリットがあるので現場にあわせて臨機応変に対応しましょう。

フリクションヒッチはマッシャー(オートブロック)↓を使うことが多いです。理由はフリクションヒッチのなかではフリクションが少なくてロープがスムーズに流れるからです。でも別にプルージックでもクレムハイストでもなんでもいいです。単純に巻き数で調整すればいい話です。

↑マッシャーはグルグル巻きつけて両端をカラビナで連結するだけです。しっかり締めると上のようになります(荷重左方向)。

下降器をスリングで延長

講習会等でやるのはこのやり方でしょう。

メリット:操作性が良い。
デメリット:支点位置が低いと使えない。

下降器が上にあるとロープをつかめる部分が長くなってブレーキを調整しやすいです。懸垂下降に慣れていない初心者でもやりやすいということで講習会等ではこのやり方を教えているのでしょう。セルフ用のスリングと一緒にすることでよりシンプルになってわかりやすいということもあるのでしょう。

でも問題は懸垂支点の位置の制限です。たとえば、足元に懸垂支点があると想像してみてください。やったことある人はすぐわかると思います。下降器をロープにセットしてから恐る恐る身体を下ろしていきます。その時、下降器がスリングで延長されていたらかなり怖い思いをすると思います。なのでやり方をひとつだけ覚えるとしたら次のやり方が個人的にはお勧めです。

レッグループにフリクションヒッチ

個人的にはこのやり方が一番お勧めです。

メリット:支点位置が制限されない。最低限のギアでできる。
デメリット:長いスリングだと下降器に接触する可能性がある。

筆者はバックアップをするときは基本このやり方でやります。レッグループにかけていいのか?!って思う人もいるかと思いますが、ハーネスの規格ではレッグループも強度試験の対象なので大丈夫です。

注意点としては、長いスリングでプルージックをしたりすると下降器に届いてしまって止まらない可能性があります。また、体勢が崩れたりして脚が上がると接触して止まらない可能性があります。実際にやる際はきちんと止まるかちゃんと確認しましょう。

下降器の上にフリクションヒッチ

ちょっと高等テクニック。講習会などでは絶対やるなって言われるやり方です。でも使う場面がまったく無いわけではありません。まあ、ほぼ無いんですけど。

メリット:登り返しに移行しやすい。
デメリット:フリクションヒッチに荷重がかかってロックすると動けなくなる。

なんでこれがダメと言われるのか。まあ一回やってみればすぐわかると思います。フリクションヒッチをしっかり押し下げずに下降するとすぐこうなるからです↓。

一旦こうなると脱出の仕方を知らない限り身動きが取れなくなります。やり方を知らなくてもロープワークに慣れてる人は以前紹介したテクニックで脱出すると思いますが、何も知らないとスリングをナイフで切れ!って話になります。

ちなみにこの状態になったらこう脱出するのが一番簡単です↓。

 

足元でロープを足に巻きつけて動かないように固定(フットロック)して立ち上がります。そしたらフリクションヒッチを押し下げます。そのままブレーキのロープを握って座り込めばまた下降を再開できます。

で、これはどういう場面で使うのか。それは登り返さなきゃいけない可能性が高いときやロープにぶら下がったまま頻繁に登り降りを切り替えるような場合です。荷重移し替えがちょうどこのセットと同じになります。

懸垂下降からの登り返し(自己脱出)の最も簡単なやり方

2017.12.09

このやり方では、下降器+バックアップの上にフリクションヒッチ+フットループをセットするだけでそのままロープ登高に移行できます↓。

後から上に追加したスリング(フリクションヒッチ+フットループ)を外せばそのまますぐに下降に戻れます。

 

あとは安全な環境でいろいろ試してみて慣れましょう。慣れないままフィールドで実践することは非常に危険です。メカニズムの理解とともに体感的に理解することが重要です。いろんなクライミングの教科書↓を読んでは自分で試して研究してみましょう。それが上達の近道です。

最後に重要かつ当たり前なヒントをちょっとだけ書きますと

・常にロープとつながっていること(常に2点以上でつながっていることが望ましい)。何かを外すには別の何かを接続しないといけない。
・もしこの状態で○○が破断したら?ってのを常に想像すること。
・ロープの上か下か、ロープワークは基本的に1次元の演算からはじまる。
・ロープ上で荷重がかかっている個所より上はテンションが入っている。
・テンションがかかっているロープに割り込めるのはアッセンダーとフリクションヒッチだけ。そのほかはテンションが抜けたロープにしかセットできない。
・基本、荷重がかかっている状態のデバイスは動かせない、外せない。
・荷重がかかった状態でロープ上を動けるデバイスはディッセンダーだけ、それも下方向にだけ。

こんなもんですかね。まあ読まなくてもいろいろ試してるうちにすぐ理解できることです。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

ストイックに理詰めで装備システムを構築する実用主義者。ponkyがデザイナーならSはエンジニア(B2は中間でバランス良い)。Sからすれば実用性第一で見た目は二の次のようだ。体力はないが、読図やロープワークは超得意。
イギリス生まれなのにアメリカ英語しか使えない日本育ち。