フラッシュライト光学系の基礎 part2 Nov.19,2017
サイト管理人の友人Sです。
前回はくっそだるい動画になってしまったので今回は反省して文章ベースです。一応動画の内容も基本は網羅するので動画見なくてもOKです。
フラッシュライトのリフやレンズはどう機能しているのか?
ウェブ上に間違った説明だらけだったのでこの記事で理屈に基づいた説明をしてみようという試みです。
といっても筆者も間違えることがあるので間違いあればツイッター、メール等で指摘していただければと思います。
光学系とは何か?
一言で言えばエネルギー分配です!
電池に蓄えられた化学エネルギーが電気エネルギーとなって回路を通り、LEDで光エネルギー(と熱エネルギー)に変換されます。そのエネルギーをどっちに向けてどれだけ放出するか。それを操作するのが光学系です。
※この記事に出ている図は全て断面図です。実際は断面図を回転させた立体的な構造です。
リフレクターの基本
part1の動画見るのがだるい人のために簡単にリフレクターの復習。わかってる人は飛ばして結構です。
光がものにあたって反射するとき、入射角と反射角は等しくなります。また、反射の際には必ずロスがあります。
リフレクターの原理はパラボラアンテナと全く同じです。
光源から放射状にでる光をリフに1回反射させて光を平行にします。
リフレクターの特性を決定する基本4要素
①周辺光の角度→リフの縦横比(口径:深さ)
厳密にはリフ焦点までの深さだが、LED用リフは焦点が底にあるから考慮不要。
(リフ半径)÷(深さ)=tan(周辺光照射角×0.5)
厳密には光源サイズも影響する(③参照)。
現実的にはベゼルリング等との干渉も考慮する必要がある。
②周辺光の明るさ→出力
集光も拡散もされないので光源の明るさがそのまま周辺光の明るさになる。
厳密に言えば周辺光に相当する照射角度における光源の出力。
単純な出力の大小だけではなく、光源の発光特性にも依存する。
③中心光の照射角→光源サイズとリフサイズの比
光源にはサイズがあるので光源の端に行くほどリフ焦点からズレた位置で発光することとなり、リフに反射させても光が平行にならずに角度がつく。
また、中心光照射角のみならず、中心光や周辺光の縁のシャープさにも影響する。厳密な話をすればリフの曲率も影響する。
(光源サイズ)÷(リフサイズ)=Nとすると
Nが大きい:中心光が広く、中心光や周辺光の縁の境界がぼやける
Nが小さい:中心光が狭く、中心光や周辺光の縁がシャープになる
④中心光の明るさ→発光密度とリフサイズの比
発光密度とは単位面積あたりの明るさ、すなわち1㎟あたり何lmでているかである。点光源において、リフ焦点の一点における明るさとその光の何%をリフにあてるかが照射距離を決める。
ただし、現実的には点光源ではないので集光効率に影響するリフサイズも重要になる。
※これは“現実的には”の話であって厳密にはもっと複雑。中心光には明るさのムラがある。中心部分が最も暗く、縁の部分が最も明るい。リフの曲率と光源の発光特性が大きく影響する。
他のパラメータ
リフを構成する二次曲線の曲率
設計の観点から言えば一番基礎的な超重要要素。光源からある角度に出ていく光をリフのどこにあてるかを決定する。詳細はpart1参照。
ダークスポットの出方、中心光角度を決定して遠方照射向け、近距離向けなどのリフの性格を決定する非常に重要な要素ではあるが、市販品を購入する限りは特に考慮する必要はない。
SMSリフ vs OPリフ
光源の発光ムラ、光学系の精度など、配光を乱す要因を完全に消すことはできない。OPリフはこの光のムラをぼやかして奇麗にする。周辺光や中心光の縁のシャープさも変わってくる。
OPリフ:配光の綺麗さを優先してムラをぼやかす。
SMSリフ:照射距離を優先してシャープにする。
メッキの種類、レンズの材質、コーティング等
光がリフで反射するトキ、レンズを通過するトキには必ずロスがある。レンズの低反射(AR)コーティング以外はスペックに現れないので見過ごされやすいが、高効率なリフは同じ出力でもワンランク上の明るさである。反射ロス、透過ロスは熱になるので放熱面でも悪影響。また、リフのコーティングの種類によって高効率な波長が異なるので色味に影響を与える場合もある。光源の波長が特殊な場合は特に注意。
レンズの基本
というわけで前置き長くなりましたがpart2!
コリメータレンズについて見てみましょう。TIRレンズとか非球面レンズとかです。
一般的にコリメータレンズは単一では全方向に出る光には対応できません。レンズ側に出ていく光は集光できますが反対側に出ていく光は何かしら別の方法で集光する必要です。キセノンは全方向に光が出るのでコリメータ―レンズは不向きで採用されることはありませんでした。しかしLEDは照射角度が狭く、限定されていますのでレンズによる集光が可能で普及しました。TIRレンズは最初はしばらくシュアファイア一強みたいな雰囲気がありましたが最近になって中華でもかなり増えてきました。
光を曲げる原理
光が透過できるもの、ガラスでも水でも空気でもそれぞれの物質には屈折率という固有の値があります。
光が2種類の物質間を通過するトキには境界面で屈折がおきます。その曲がり方は屈折率の値に依存します。
屈折率nの物質Aから屈折率mの物質Bに光が通過するトキ、入射角をθ、屈折角をφとすると以下のような関係が成り立ちます。
nsinθ=msinφ
また、屈折の際には必ず一部が境界面で反射してしまい、ロスが発生します。(反射角はθ)
入射角をしだいに大きくすると屈折角が90°となります。この時の入射角を臨界角と言います。
入射角が臨界角以上になると光は全て境界面で反射します。これが全反射(TIR)です。
全反射は自然界で唯一効率100%で光を曲げることができる方法です。
もちろんレンズそのものの透過ロスはなくせませんが。とはいえ、“良いライト”は相当透明度高いガラス使ってます。
言葉の整理
コリメータレンズ:点光源から放射状に出る光を平行にそろえるレンズの総称
TIRレンズ:全反射を利用したレンズの総称。レンズを薄くするのが主な目的。
非球面レンズ:表面が球面ではないレンズ。球面レンズと対比させた言い方。
光の一部をあえて拡散させるレンズは厳密にはコリメータレンズでは無いのですが、フラッシュライトにおいてはわりとそのあたりはルーズです。非球面レンズという言葉も使われ方はかなりテキトーです。
リフレクターの場合は上に書いたように見た目とスペック表でおおまかに配光の特性がつかめます。でもレンズの場合は残念ながらそうはいきません。設計次第でどこの光はどっちに飛ばすか自在に操作できちゃうんです。リフのビームパターンは中心光と周辺光という2部分で構成されていますが、レンズの場合はリフに似た中心光と周辺光という構成にもできますし、その周辺光の角度をレンズサイズに関係なく自由に広くしたり狭くしたりもできます。周辺光の全くないフラットで均一な中心光のみの配光も作れますしその角度も自由に調整できます。ほかにも例えば周辺光、中心光、その中にさらに狭い中心光といった3段階の構成もできますしそれぞれの照射角も設計次第で自由に設定できます。中心から周辺に向かって暗くなっていく奇麗なグラデーションになるような配光だって作れなくはないです。リフは二次曲線という縛り(※)があるからこそ見た目とLEDの種類、出力である程度分かりますが、レンズの場合はデザイン次第でどんな配光にもなるので“○○だからこういう配光だ”とか言えないんです。
※厳密にいえば拡散目的に二次曲線じゃないリフレクターも設計できますが一般的ではありません。
リフでは光がまがるのはリフで反射するときの一回だけです。でもレンズの場合は何回も曲がります。レンズに入るときに屈折し、TIRレンズの場合はさらに全反射し(しかも1回とは限らない)、最後にレンズから出る時も曲がります。レンズはリフと比較して設計の自由度がはるかに高いのです。もちろん大前提として曲げる回数が少ない方が効率や精度の点で有利ですし、光の通過ルートが交差が少ない方が配光を奇麗にしやすいです。逆に自由度が高い分、真面目に設計しないと簡単に配光が汚くなります。特に周辺光はムラが目立ちやすいので均一に光を配分するようにしないとすぐ汚くなります。
てことはですね、
レンズの場合は法則とかは無いんです。ぱっと見じゃまず絶対わかりません。
あえて言えることがあるとしたら、、、
レンズの面の形状で照射角をコントロール。これはぱっと見じゃまずわかりませんし、側面や裏側など見えない部分も含めてです。
物理的な大きさで光源サイズの影響をコントロール。大きいほど影響を受けにくいです。
光源サイズについては上に書いたリフの基本法則③と全く同じ理屈です。反射や屈折のズレを減らしたいなら光がでてから反射なり屈折なりするまでの距離がある方がズレは抑えられます。
じゃあさ、どうすりゃいいわけよ?
あきらめてください。レンズひとつひとつの動作原理を理解するしかありません。
もちろん同じ原理のレンズでもサイズやLEDの種類、材質をかえるだけで配光がガラリと変わることも珍しくありません。でもそれはリフの時と同じです。見た目が似ていても原理が全然違うこともあります。
やったことないけど大きいレンズならレーザーポインターでなかを照らしこんでどこを通るか見ればわかったりするのかな?
とはいえ、よく使われているタイプってのはだいたい決まってます。
きつい段差がいくつもあるものはあまりフラッシュライトでは見かけません。光源サイズ由来の誤差が汚く出やすいからでしょう。
また、複数レンズを組み合わせたものも見ません。携帯性や効率の問題ってことでしょう。
さて、ひとつひとつちまちま調べてもいいんですけどそんなめんどい事をズボラな筆者がやるわけがない
よし、google先生に聞こう!←めんどくなっただけ
うわーすげえ!俺知らないのいっぱいあるよ!
いやあ、そもそもこの記事必要だったのか。。。
中国の大学生のスライドとかあったんですけどそれめっちゃ詳しいやん。さすがフラッシュライト先進国。
インターネット上の皆様からありがたく図を引用させていただこう!
※それぞれのレンズの正式な名称はついてないのでここだけでの仮の名称です。
①非球面レンズタイプ
どーんと非球面レンズ。一番単純な形式のレンズです。入射面や投射面にいろんな形がありますがどれも似たような原理です。
これのデカいのがついてると周辺光無しでぶっとい光軸がかっ飛びます。
クラルスFH10とかYSC cannonとかですね。逆に小さいのはあまりみかけません。でも小さくするなら下に載せるような別方式のTIRを普通は採用するのでこういう非球面レンズを採用するメリットもあまりないと思います。
なので採用される場合はサイズがデカくて重いです。
光の交差もなく屈折2回で光が集中されて平行になるので光源の発光特性がそのまんま素直に出ます。
ちなみにこの曲面は焦点からはいった光が出る時は平行に屈折してくれるちょうどいい角度になるように設計されています。なのでこの曲面をいじれば光の出る時に角度をつけて拡散させたりグラデーションにしたりすることも可能です。レンズサイズを考えると実用的かは微妙ですけど。ただ、拡散させる非球面レンズの発想はこの下で再度登場します。
②複合TIRタイプ
フラッシュライトに採用されているTIRレンズのほとんどすべてがこのバリエーションです。
光の経路は図の赤線と青線の2種類です。真ん中は非球面、外側は全反射。光源から浅い角度ででた光が反射される点でリフレクターと似ています。
赤線の部分は上に紹介した①非球面レンズタイプと同じです。
青線の部分はレンズの側面部分で全反射します。
光の経路が赤線と青線に切り替わる境界になる角度はレンズによって異なります。
この赤部分と青部分の比率は様々で下にもいくつかバリエーションをあげてみます。
図の青線の経路、すなわち全反射される部分はどのレンズでも同じ原理です。
でも赤線の経路、即ち非球面レンズの部分がかなり変わってきます。
この赤線の非球面の部分は意図的に肥大化させることもありますが一般的にはどうしても小さくなりがちです。そうすると光源の物理的な大きさの影響でどうしても拡散されてしまいます。TIRの部分と比べてどうしても集光に不利なのです。
ということであえてここの非球面レンズで集光するのを最初からあきらめて拡散に振ることもあります。もちろん逆にTIRで拡散とか両方拡散とかもありえます。
光がレンズに入る時と出る時の2回の屈折で光が平行になるように設計するのではなく、あえて広がるような角度に屈折するように曲面を設計するのです。ほかにもディフューザーのように曇らせて拡散させることもあります。
リフでは周辺光の角度はリフの深さと直径で決まりましたが、このタイプのTIRレンズでは中央部分の曲面の設計次第でどんな角度にもなります。
中心から外側に向けて光の強さをかえることだってできます。これに関しては青線の全反射の部分でもできますけど。
もちろんどんな設計しても小さいと光源サイズの影響を大きく受けちゃいますけど。
余談ですが、、、
このレンズは光源から出る光の角度に基づいて中心部分、外側部分と光の経路が異なる2つの部位に分けてます。
最終的に光がレンズから出て照射される角度はこの2つで違いが出ちゃいます。
中心部分を拡散に振ってる場合はもちろん、集光に振ったとしてもどうしても違いが出ちゃいます。
飛ばす系のTIRレンズの配光が強い中心光のまわりにそれよりちょっとだけ大きい周辺光という組み合わせになるのは光の経路の違いです。
仮に中心の非球面部分を拡散に振ったときの場合のときを考えてみましょう。
この手のTIRレンズの光の経路は2通りですが、3通りだったら?
中央の非球面レンズをさらに内側と外側にわけて照射角度に差をつけます。
まあここまで読んでくれてる人ならわかりますよね。
広い周辺光があってその中央に中心光、さらにその中にもっと鋭い中心光、みたいな3段階のビームパターンが設計できるわけです。
非球面レンズを分けて考えましたが、全反射の部分だって分割して設計できます。
これは3分割で考えましたが、光の経路をもっと細かく分けたら、さらには連続的に照射角度を変化させたら。。。
まあ実用的かは微妙ですけどもしそんなもの作ってるメーカーあったらそれはただの変態エンジニア精神です(笑)。
話戻して以下、複合TIRタイプのバリエーション
中央の非球面レンズ部を肥大化して拡散を抑えた飛ばす系レンズ。より正確に言えば、非球面レンズとTIRの経路の違いによる照射角の差を抑えています。逆に寸法や比率を変えてオーライトS1などのように小さくすれば奇麗に拡散するレンズにもなります。
ちなみにこれの画像ソースのスライドすごいわかりやすいです!この記事の存在意義。。。
https://www.auer-lighting.com/en/products/led-optics/collimators/
https://www.osapublishing.org/ao/abstract.cfm?uri=ao-54-25-7632
↑これら2つは採用数が多い2トップです。TIRレンズと言われたらまずこれらを疑いましょう。
中心部分を屈折角を考慮した局面にせず、普通の平面にして拡散させている例です。TIR側への入射面は実際は反射面に対応した曲面です。現行シュアファイアEシリーズのKE系ヘッドなどに採用。単純ですが結構な角度で拡散させています。
③その他
これはかなり特殊です。Inovaに昔採用されてました。もしかしたらシュアファイアKX9系のヘッドもこれかもしれません(※)。長さが必要で周辺光のコントロールも繊細な設計で難しいんじゃないでしょう?実用的なのかはわかりませんがこれ採用した設計者は高確率でかなりの変態です(笑)。
※Dec.9,2017追記 B2から指摘されました。KX9は多分複合TIRタイプです。
ほかにもリフレクターと組み合わせたものとかいろいろあります。もはや設計者のセンスと独創性次第です。
この図は明らかに光の経路がおかしいですが。。。
まとめ
コンピュータ技術の発展とLEDの台頭でコリメータレンズは一気に普及しました。
でも残念ながら見た目でわからない部分が大きいです。言えるのは
・レンズの形状で照射角をコントロール
・物理的な大きさで光源サイズの影響をコントロール
レンズの形式としては
・中央非球面レンズ、外側TIR←ほぼ全てがこれ
・巨大な非球面レンズ
がメジャーですが他にも設計者次第でいろんな奇抜な形式なレンズがつくこともあります。
レンズというのは光を曲げる手段の一つでしかなく、リフレクターと組み合わせたり複数レンズを組み合わせることもあります。
ただ、フラッシュライトは軽量コンパクトや高効率を重視するのでシンプルな構造が有利となり、複雑な構造はよほどの特殊用途でない限りはありえないでしょう。
最初にも書きましたが、光学系はエネルギー分配の手段です。目的に対して最も効果的とされる手段が選択されるだけです。
でも何と言っても実際に点灯するのが一番簡単にかつ確実に結果を知る方法ですね苦笑。
もしpart3をやる機会があればLEDの種類とか光源についてやります。めんどいからやるかわかんないですけど。